チューベローズ
薫はおしゃれに命を懸ける高校一年生。
電車に揺られながら、自分を殺すつもりの男を待ち焦がれる。
「あの子」を守るためにはそうするしかないから。
壮花 短編壮花,小春野薫,杜若颯太,馬剛月子
失せもの探し
「お願い、小春野くんにしか頼めなくて」
ちょっと女装が上手いと(『できる』ではない。『上手い』と)、変わった友人がいる自分に酔いたい連中が寄ってくるから参る。
「初対面でいきなり探し物を手伝えって言われてもね。お友達とかに頼みなよ」
「ダメ! 女の子は信用できない、隠したり盗んだりするかもしれない」
壮花 短編壮花,小春野薫,杜若颯太,馬剛月子
白と青
「よろしくお願いします!」
ひんやりとした三和土に、圧縮された熱気と蝉の濁り声がまとめて押し入ってくる。青人が一〇三号室の玄関先で大きく頭を下げる。
今年中学生になったはずの甥は、正月に会ったときと全く変わらないように見えた。
「野球教えてほしいって具体的にどうしたいの」
短編シリーズなし,寄稿作品
スノッブの鏡像
わかるよ。気持ちいいもんな。
自分が選ぶ側だっていう錯覚の中にいるのも。徒党を組んで偉くなった気でいるのも。
安全圏からいつかの憂さを晴らすのも。劣等感を受け止めてくれそうな案山子を、知られる間もなく一方的に殴るのも。
短編シリーズなし
春がもうひとつあったとて
「松原さんって誰?」
桜原家のポストに入っていた、見知らぬ差出人からの手紙。心穏やかでない椎弥は皓汰を問い詰めるが、皓汰はどこか浮ついた様子で返事を書こうとしていた。
――皓汰はいつも自分を表現する言葉には不自由している。椎弥と共有できるかたちにはならないし、してもくれない――
短編 高葉ヶ丘三住椎弥,桜原皓汰,高葉ヶ丘
やさしくしたい
首吊り。ばらばら。串刺し。丸焦げ。
少女たちはいかにして死体となったか。
犯人探しも謎解きもない、乙女の秘密を紐とくだけの些細な物語。
短編シリーズなし,短編集
「お兄ちゃん絶対合挌!」
講堂の床にお守りが落ちていた。
俺と同じ受験生のものだろうか、拾ってあげた方がいいよな……。
『お兄ちゃん絶対合挌!』
短編 高葉ヶ丘300ss,永田慶太郎,高葉ヶ丘
墜憶の夏天
僕はおまえを殺してでも生かし続けたかった。
僕の追った影が死んでも、知らない君が歩んでくれる未来を選び取りたかった。
太陽を堕とした日。愛よりも深く胸を穿った夏の記憶。
短編 高葉ヶ丘恋に向かない男たち,新田総志,桜原太陽,高葉ヶ丘
覚えていなくていいから
ビルとビルの間に敷かれた大通りを歩いていく。どことなく高校の通学路に似た景色。
三年経ってできることも行ける場所も増えて、それでもまだ二人で歩いている。為一は浮かれた声で怜二の顔を覗き込んでくる。
「で、レイジくん。今日はどこ連れてってくれんの?」
短編 高葉ヶ丘八名川為一,恋に向かない男たち,早瀬怜二,高葉ヶ丘
留年旅行
マンションのエントランスにゴルフに行きそうなオッサンがいると思ったら彩人だった。
「おはよ、あっちゃん。今日も十八歳とは思えない格好してるね。またお父さんのクローゼットから勝手に服借りたの?」
「そういう慶ちゃんは今日もまるで小学生だな。その原色のセーター、レゴブロックみたいで似合ってるぞ」
短編 高葉ヶ丘富島彩人,恋に向かない男たち,永田慶太郎,高葉ヶ丘
掬われない
セーラーの襟を茶色のポニーテールが何度もかすめる。
藤谷の横顔は今日も夕陽に縁どられている。
短編 高葉ヶ丘300ss,桜原太陽,高葉ヶ丘
多少なりともましな椅子へ
財布と携帯電話と煙草にライター。持ち歩くのはこれで充分。
黒いロングカーデのポケットに愛用のセットを突っ込んで、皓汰はひらりと電車に乗った。
短編 高葉ヶ丘桜原皓汰,高葉ヶ丘