作品

ここはもう俺たちのいる場所じゃない

大晦日の夜、神成岳志は電気もつけずに他人の部屋の番をしていた。
嘘みたいだ。あの女が、久野里澪が、もうこの国のどこにもいないなんて。

気化する絶望

 新聞部の部室前。ドアのガラススリットから光が漏れており、見回り途中の和久井修一はため息をついた。ここの部員は本当に面倒な生徒しかいない。「誰だーい、こんな時間まで居残ってるのは。下校時間はとっくに過ぎているよ」 いかにも模範的な教師らしい…

白と青

「よろしくお願いします!」
 ひんやりとした三和土に、圧縮された熱気と蝉の濁り声がまとめて押し入ってくる。青人が一〇三号室の玄関先で大きく頭を下げる。
 今年中学生になったはずの甥は、正月に会ったときと全く変わらないように見えた。
「野球教えてほしいって具体的にどうしたいの」

スノッブの鏡像

わかるよ。気持ちいいもんな。
自分が選ぶ側だっていう錯覚の中にいるのも。徒党を組んで偉くなった気でいるのも。
安全圏からいつかの憂さを晴らすのも。劣等感を受け止めてくれそうな案山子を、知られる間もなく一方的に殴るのも。

文体練習(90~99)

『文体練習』レーモン・クノー 著・朝比奈浩治 訳 バスの中で起こった出来事を99通りの文体で書いた本。 この本の真似をして、(ほぼ)毎日一題文体の練習……というより実験をしていく企画です。 91 表現不能  2023/02/23 …

文体練習(81~90)

『文体練習』レーモン・クノー 著・朝比奈浩治 訳 バスの中で起こった出来事を99通りの文体で書いた本。 この本の真似をして、(ほぼ)毎日一題文体の練習……というより実験をしていく企画です。 81 ちんぷん漢文  2023/02/0…

文体練習(71~80)

『文体練習』レーモン・クノー 著・朝比奈浩治 訳 バスの中で起こった出来事を99通りの文体で書いた本。 この本の真似をして、(ほぼ)毎日一題文体の練習……というより実験をしていく企画です。 71 語頭音付加  2023/01/17…

春がもうひとつあったとて

「松原さんって誰?」
 桜原家のポストに入っていた、見知らぬ差出人からの手紙。心穏やかでない椎弥は皓汰を問い詰めるが、皓汰はどこか浮ついた様子で返事を書こうとしていた。
 ――皓汰はいつも自分を表現する言葉には不自由している。椎弥と共有できるかたちにはならないし、してもくれない――

文体練習(61~70)

『文体練習』レーモン・クノー 著・朝比奈浩治 訳 バスの中で起こった出来事を99通りの文体で書いた本。 この本の真似をして、(ほぼ)毎日一題文体の練習……というより実験をしていく企画です。 61 漸増方式による文字の置き換え  2…

文体練習(51~60)

『文体練習』レーモン・クノー 著・朝比奈浩治 訳 バスの中で起こった出来事を99通りの文体で書いた本。 この本の真似をして、(ほぼ)毎日一題文体の練習……というより実験をしていく企画です。 51 無造作  2022/12/12 侑…