言わないから、こうしていられる
高校生の頃、伊禮瑞榎はよく、その砂浜で波乗りをしていた。 サーフィン部がメインで使う場所とは違って、『最高の波』なんて滅多に来ない。よって人気もない。だからこそ伊禮はここを選ぶわけで、伊禮ならその気難しい波でも軽く手懐けてみせた。 長深田…
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僕らは白い鳥じゃない
「あれ、昴くん。どうしたのさ、こんなとこで」
「……八汐先輩こそ」
風の気持ちいい三月の旧空港、昴は苦々しい思いで呟く。八汐海翔は、何をするでもなくそのコンクリートの平原に立っていた。
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隠したことほど
「……日高くんは、あき穂ちゃんのこと嫌いなの?」
淳和が尋ねたのにはとりたてて深い意味はなくて、更に言うなら明確な答えを期待していたわけでもなかった。
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反逆シンデレラ
『ねえ澪、お願いったら』
刹那的で打算的な人間関係ばかり構築してきた澪にとって、成程彼女――牧瀬紅莉栖との付き合いは、長いと言って差し支えなかった。恩義も一応感じている。少なくとも、日本では深夜と呼ばれる時間帯に、通話に応じてやる程度には。
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盾を守る乙女たち
「神成岳志の容態は、死んでないのなら二の次だ。――撃った奴はもう捕まっているんだろうな?」
「まだ、らしいです……」
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青すぎたシトラス
「……俺もしかして今まさに、流行の『壁ドン』ってやつされてる?」
「これは派生形の『股ドン』だ、情報は正しく掴めよ。あと壁ドンは今もう然程流行ってない」
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澪標
「映画を――観たよ」
ただそれだけのことを言うのに、舌が鉛のように重い。神成は床に視線を落とした。
「初めて会ったときに言ってた、ヴィンチャーの。レンタル屋で見つけて借りたんだ」
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名前を呼んで
「『赤紙』」
「『密葬』」
「『羨み』」
「『民間企業』」
どうして個室で、久野里澪と向かい合って、真顔でしりとりをかましているのか。謎だ。
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ポケットいっぱいの意地っ張りキャンディ
3月13日も、もうすぐ終わり。神成岳志は早く帰って眠りたい。
フリージアのローテーブルにブルーがかった透明な小瓶をどんと置いたのだって、義務みたいなもので。
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4分の1の純情なビターショコラ
神成岳志が紙袋を提げて信用調査会社フリージアを訪れたとき、時刻はもう2月の15日近くになっていた。けれど不定休のフリージアは、よく言う平日9時-5時では閉まらない。
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青い首輪をいつ外す
二〇一八年の六月上旬、渋谷のビアガーデン。
神成は『パリピ』や『陽キャ』、『リア充』などの表現を他人に用いたことはないが、周囲の客席は他にどう呼んだらいいか分からない人種ばかりだった。
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ブルーブルー・ビリジアン
久野里澪から、日本にいるので面を貸せと電話があったのは、二〇一七年の暑い盛りの朝だった。
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