第六章 太陽と手を携えて - 3/6

SIDE:Ike

 

伝心

 

「……で、どうするんだよ。お前」
 背後で入り口の布がばさりと落ちた。イナに与えた天幕から出てきたアイクは、険しい顔でライを振り向く。
 実はイナはナーシルの孫娘で、ナーシルの一見破綻しているように思えた行動の数々も、彼女をかばうためだったということを当人たちから聞かされた。
 また、重要な情報と共にイナは、アイクがずっと気にしていた狂気の獣――デイン軍が『なりそこない』と呼ぶラグズについて話してくれた。彼らがデインの実験の被害者であること、またその実験場がこの近くにあること。
「どうするって、何をだ」
「レテを連れて行くつもりかって訊いてんだ」
「ああ。連れて行くもなにも」
 アイクは忘れえない記憶に触れながら、鋭く息を吸う。
「俺たちが最初にその被害者たちに出逢ったとき、息の根を止めたのはレテと俺だぞ。レテは『もう助からない、せめて楽に』と言っていたそうだ」
「――正気じゃないのが分かってた?」
 ライは少したじろいだようだったが、何に対する動揺なのかまではアイクには分からなかった。
 とにかく口先の疑問にだけは頷いておく。嘘だろ、とライは乾いた声で笑った。
「そういうとき、レテは最後まで往生際悪く説得を試みるタイプだぞ。楽に殺せなんて、それこそ上からの命令がない限り」
「上は、お前だろう」
 アイクは責めるでも怒るでもなくライの瞳を見つめた。
「だからレテは、お前がいればこうするであろう引き際を選んだんじゃないのか。あいつの上には誰もいなかったからな」
「……言われちまったな」
 ライは左目を押さえ、よろめくように近くの巨木に寄りかかった。いつも健康的な肌の色が、今はひどく蒼褪めて見える。
「それでアイツは、大丈夫だったのか。しばらくふさぎ込んだりはしなかったのか」
「それは……ジルたちがいたからな。ただ……」
 アイクは『なりそこない』というワードを慎重に避けながら、意味もなく足元の小石を拾う。
「……そいつらを運びながら用心棒代わりにしていたベオクを、レテは殊更残酷に殺した。まるで楽しんででもいるかのように、死は当然の結果であってそこへ至る過程にこそ意味があるかのように、それまで見たこともないような――いや、それからも一回だって見たことのないひどい殺し方だった。俺が止めなかったらどうなっていたか分からない」
「だったらなおさら置いていくべきだろ!!」
 ライは両目を閉じて俯いた。弱々しい姿で声だけを張る。
「たった二や三の被害者で理性のたがが外れちまうんだぞ。三十近いイカレちまったラグズに囲まれて、アイツの精神が持つと思ってんのか? 傍で見るよりずっと繊細なんだぞアイツは……!!」
「知ってる」
 アイクは静かに答えた。
 幾度も見てきた。あの紫色が揺れるのを。けれど彼女は、何度でもその痛みを血肉にして戦い抜いてきた。朝焼けの色でアイクを導いてきた。
 だからアイクはまだ、彼女の隣で戦える。
「何も知らずに守られるより、たとえ血を流そうと真実を求める。俺はレテを、そういう奴だと思っている」
「……お前にケンカ売っといてよかったぜ」
 ライはうんざりした様子で顔を上げた。
「ただレテに仕掛けたのは早まった。ちと殴られて調子戻してくるわ。その間に考え直してくれ、アイク将軍」
 ひらりと手を振って立ち去る。アイクは眉間のしわを、ついに解かなかった。
 

 

 レテは別働隊の話をいずこからか聞いてきたらしい。アイクやライが気を回すまでもなく、一緒に行きたいと言ってきた。
 喜ばしい訳ではないが断る理由もない。アイクはすぐに頷いた。
「あんたにとって、つらいことにはなるだろうが――」
「構わない。戦とはそういうものだろう。……お前やジルが身内を失う痛みを乗り越えたというのに、私ばかり人任せには出来ない」
 レテがそ微笑むので、アイクは黙って右手を差し出した。柔らかい手で握り返される。その腕に巻いた布は互いに交換したままだ。
 自分にとってそうであったように、彼女にとってもそれが、勇気になればいい。
「俺には傭兵団のみんなや、あんたがいた。ジルにとっても、あんたやミストがいたことはきっと大きな支えだったと思う。だから、レテの番だというのなら、俺たちのことも頼ってくれ」
「ああ。ありがとう」
 彼女が自然にそう言ってくれることが嬉しい。
 だからアイクは、そのときはそうは思わなくても、きっと楽観視をしていたのだ。
 夕暮れ前には戻ってこなければならない。猶予はもうなかった。
 残酷な運命のカードを引き、彼らは、地獄へと行軍を始めた。
 

 

 ひどい戦場だ、とアイクは胸中で毒づいた。
 ひどくない戦場などない。そんなことは百も承知だ。しかしデイン兵たちには少なくとも『意思』も『意志』もあった。目の前のラグズたちには、暴走した『本能』しかない――言いたくはないが獣そのものだ。
 彼らを屠るだけの作業。最早『戦』ですらない。ただの『殺戮』だ。こんなやり方でしか彼らを『救済』出来ないのなら、自分たちがここに来た意味は何なのだろう?
「……大丈夫ですか?」
 血濡れの剣を振り下ろしたまま、肩で息をするアイクに話しかけてきたのは、意外にもイレースであった。倒れそうな顔色だ。とても他人を心配する余裕があるとは思えない。
 アイクが、あんたこそと言いかけたとき、イレースははっきりとそれを遮った。
「私、モゥディさんのこととても好きです」
「え?」
「私がお腹を空かせていると、ご飯をご馳走してくれたり、木の実を取ってきてくれたり、一緒に狩りに連れて行ってくれたりします。とても優しくて……あたたかいです」
「ああ」
 それは戦には関係のないことかもしれない。
 だがアイクには、イレースの言葉が場違いだとはどうしても思えなかった。
「私たち、こんな風に出逢わなければ、『このひとたち』とも仲良くなれたかもしれません。それがとても――悲しいです」
「……ああ」
 淡々とした口調の中に、アイクと同じ想いが滲んでいる。アイクは手の汗を服で拭い、柄を握り直した。
 レテは傍らにない。ラグズたちは皆、彼らを殺す咎を一身に負うかのように先行している。
「後退しろ! 竜鱗族だ!!」
 だが理性のない竜の相手は流石につらいと見えて、態勢を整えるためか後退してきた。
 イレースは短く息を吐く。
「私、アイクさんのこともとても好きですよ」
「は?」
 聞き返そうとして、凄まじい魔力の奔流に弾き出された。逆巻く雷の中でイレースは儚く――微笑んでいた。
「失いたくないから。貴方のことも、モゥディさんのことも。だから私、殺します。立派なことは言えないけど、守りたいから――そうでしょう?」
 突如暗雲が立ち込める。イレースの呼んだ雷雲だ。
 彼女は空を抱くように両手を掲げ、慈愛に満ちた声でその術を唱えた。
雷王の威光レクスボルト
 誰もが息を呑んで、槍のごとき雷撃の束が赤竜を貫く様を見ていた。残滓のような火花が周り中で舞っていた。全ての光が収束した後、そこには死体すら残っていない。
 イレースが、否、味方の魔道士が今までに見せたどんな魔術よりも神々しい、奇跡。
「貴方が声を上げないと」
 イレースは微笑んだままそう告げた。
「貴方が意志を示さないと、みんな進めませんよ」
「あ、ああ」
 アイクは弾かれたように頷き、雷王の威光に気圧されている面々を見回した。
「竜鱗族を警戒しつつ、全力前進!! この戦を、一秒でも早く終わらせる!!」
 皆が応える。今まで気負っていたラグズたちも、余計な力が抜けたように見えた。
 アイクは礼を言おうと振り返ったが、既にイレースの姿はない。現状、竜鱗族に対抗できるのは、手負いのイナとナーシルを除けば彼女だけだ。先に行ったのだろう。
 また誰かの気遣いに救われたことに感謝しながら、アイクも彼らの後を追った。
 グリトネア塔は程なく陥落した。しかしここの『主』は既に逃げおおせたものと見えて、一般兵の他に捕らえることは出来なかった。
 それでも何も得られずには帰れない。塔の調査を続けていると、ナーシルがためらいがちに声をかけてきた。
「みんなに、見せたいものがある。地下まで来てくれないか?」
 隠し通路を見つけたと言う。碌な予感はしなかったが、そんなことはここに来たときから覚悟していたことだ。
 ナーシルの後にイナが続き、アイクたちもその後を追った。足音が鈍く反響する螺旋階段は、先の見えない闇に皆を誘う。最下層に近づくにつれ、強烈な異臭がアイクの鼻を衝いた。
「なんだ、この臭いは……?」
「腐臭だ」
 ナーシルは絞り出すような声で言った。この先にあるものを知っているかのような口振りだった。事実知っているのだろうが、今は問い詰めるより我が目で見たい。
 空気の流れが止まった。永遠と思えるほど続いていた段差もない。ついに到達した。
「何も見えん。明かりを……」
 アイクが言いかけると、セネリオが魔術で近くの蝋燭に火をつけた。繋がっていたらしい壁中の燭台に、一斉に火が点る。暗がりが慈悲深く覆い隠していた地獄が、爛々と面を上げ声もなく襲い掛かる。
 アイクよりも聡く事態を予想したはずのセネリオさえ、狼狽を隠しきれずアイクにぶつかった。いつもなら小柄なセネリオを受け止めることぐらい、どうということもないアイクも、つられて数歩後ずさる。
「……これは、なんだ?」
 疑問を口にしたのは自分かと思ったが、ライだった。セネリオを支えるのがやっとのアイクの代わりに叫んでくれる。
「答えろ、ナーシル! これはいったい、なんなんだ!?」
 ナーシルは答えなかった。口を開いたのは孫娘の方。細い片腕を、もう一方の腕で爪の食い込むほど握っている。
「ラグズです……。かつては、ラグズであったものたち……です……」
 ――こんな言い方をしてもいいものか、疑わしいが。
 ただの死体の山であったのなら、アイク達とてここまで動揺はしなかったろう。
 顎を開けたまま固定され、翼を杭で打たれ、標本のように繋がれたものたち。
 羽を縫いつけられた毛皮、鱗を埋め込まれた肌、ありえない奇数本の牙。
 同胞に噛み付いたまま朽ちた骸。何かを訴えるように開いた嘴。持ち主の分からない尾。
 揃わない骨。腐りゆく肉。剥き出しの内臓。
 脳を破壊するような悪臭には、明らかな人工物の刺激が混じっていた。
「アシュナード王はラグズを道具だと思っていて、何をしても構わないと、学者たちに命じて……様々な実験をさせていたようです。薬を使われたラグズは精神を破壊され、化身状態が解けなくなります。生命は短くなりますが、一時の戦闘力が高いので……それで……」
 イナの口調はアシュナードの凶行を肯定するものではなかった。ただ単純に怒るには、きっと多くのものを見すぎてしまったのだろう。疲れて枯れたような響きがあった。
 アイクは何と言っていいか分からなかった。彼にとってもまた、義憤だけで片付くような惨状ではなかったから。
 皆が凍りつく中で、ゆらりと動いたのはレテだった。見たほどもないほどゆっくりと、身体が蒼い光に包まれて、輪郭が揺れる。不確かな指先で錆びた鉄格子を掴む。
 そして静かな静かな化身の後、レテはおもむろに、その格子に噛み付いた。
「レテ!」
 アイクは叫んで一歩前に踏み出す。レテは反応しない。頑強な金属の棒を外そうとでもするように、しきりに頭を振る。牙の隙間から真っ赤な血が溢れ出る。
 止めたくて更に進もうとしたアイクを、ライが突き飛ばす。思わず尻餅をつくアイクの前で、ライはレテを抱きすくめた。
「やめろ、レテ! 無駄だ!!」
 レテは格子を咥えたまま、床石を殴りつけるように両脚で引っかく。そんなことはもう、中にいた『彼ら』が再三試したはずだった。それでどうにもならなかったから、こうなってしまったのだと、聡明な彼女には分かるはずだった。
 けれど彼女はやめなかった。『手遅れ』かどうかなど、今の彼女にはもう関係がないのだ。自らの身体を壊し尽くしても、『彼ら』を救おうともがき続けるだろう。
 ――アイクの声はきっと、届かない。
 ライに、彼女を置いていけと言われたことを思い出した。
 こんなことになるくらいなら、従っておくべきだったろうか?
 綺麗なものだけを見せておくべきだったろうか。
 穢れたものは自分達だけで引き受けておくべきだったろうか。
 アイクは、あの暁の色が忘れられなくて。雨の闇夜を駆け抜けた光の色に憧れて。
 どんな悪夢を切り裂くときも、傍らにあの色があれと、願っただけだったのに。
 天から引きずりおろすぐらいなら、いっそ、手を伸ばさなければよかったのか。
 ライの懸命な呼びかけに、レテはようやく我に返ったようだった。
 化身が解ける。現れた小さな少女は震えていた。今までのどんな局面よりも弱々しく震えていた。
 ライがその身を抱き上げる。ようやく立ち上がったアイクの横を、二人は一瞥だにせず通り過ぎていった。
 追えなかった。
「……セネリオ」
 アイクはかすれた声で呟く。個人的な行動よりも先に、やらねばならぬことがある。
「弔って、やってくれ」
 セネリオは黙って頷いた。真っ直ぐに腕を持ち上げる。指先が赤く光り出す。横に薙ぐと、炎は術者の意識通りに躊躇なく『彼ら』を包み込んだ。ただ死肉が焼けるとき以上に嫌な、むせ返るような臭い。骨まで溶かす高温の、目を潰すほど眩しい魔法。
 冷え切った暗い部屋の中に置き去りにされた『彼ら』を、ようやくこの日アイクたちは、光ある世界へ連れて行けたのだ。
 少なくとも、そう信じたかった。
 たとえ『彼ら』の同胞がその偽善の一切を認めてくれなくとも。
 

 

 塔から出た後も、視界には不吉なほどに赤い世界が広がっていた。
 一面の炎と違うのは、上方がわずかな藍に淀んでいるということ。熱が増していくのではなく、これから急速に冷えていくということ。
 彼女は茂みに身を隠すよう、塔に背を向けて座り込んでいた。傍にライはいない。ただ彼のものらしい、彼女のものより少しばかり長い外套が肩を覆っている。
「レテ」
 足音でもう気付いていただろうに、声をかけるとレテはびくりと身を震わせた。返事はおろか、振り向いてすらくれない。
 初対面の、見下した警戒とは違う。自分の両腕を抱いて固まっている。アイクは肩をすくめ、自覚すらないまま薄く笑った。
「――俺が怖いか?」
 レテは答えない。それが肯定だった。だからアイクも本音をこぼす。
「俺は怖いよ。立場とか、状況次第で……どんなことでもしてしまうベオクってやつが、俺は、怖い」
 彼女は聞いてくれていた。伏せられていない耳が証明だった。だからアイクは言葉を紡ぐ。
「けど俺は、あんたを失うことの方が怖いんだ。そのためならベオクであることを捨てたっていい」
「――そんなことを」
 レテがようやく口を開いた。風が運ぶその声は、今にもかき消えそうだった。
「言うな。同胞を、軽んずるようなことは」
「俺はあんたの同胞にはなれないのか」
 また沈黙。アイクが半歩踏み出したせいで、足元の土が間抜けに鳴った。
「いや、なれなくてもいい。それでも俺は、レテの傍にいる」
 また一歩。急く足を必死に抑えて、彼女の元に歩み寄る。
「ラグズになれなくとも、俺は絶対にレテを裏切らない。世界中のラグズが俺を否定しても、たとえ世界中のベオクを敵に回しても」
 なんて細い影。なんて小さい身体。けれどアイクは知っているのだ。
 彼女がどれほど強いのか。どれほど優しいのか。どれほどあたたかいのか。
 こんなに寒い場所に。こんなに寂しい場所に。こんなに暗い場所に。
 沈んでいていいひとでは、ないのだから。
 右手を差し出す。この一言さえ言えるのなら、直後に喉が潰れても構わないと思った。
 あいしていると伝えられなくても、構わないと思った。
 伝わらなくとも愛している。俺の世界を救ってくれたのは、他でもないあんただから。
 俺は生きている限り、この腕を伸ばし続けるから。
 だから、頼む。
「この手を取ってくれ、レテ!」
 雲が走る――。
 顔を上げたレテの瞳に宿る光は、夕暮れに似た夜明けの色――。
「お前はベオクだ」
 レテの言葉は拒絶のようにはっきりとしていた。けれどゆっくりと、爪の剥がれた真っ赤な手が持ち上がる。
「それでいい。……お前がアイクであるというだけで、充分だ」
 やわらかな手のひらが、手袋越しにアイクの手に重なる。華奢な指が締まる。見た目からは想像も出来ないほど、強く強く握る。
「信じよう。たとえ他の全てのベオクが、私たちに剣を向けても」
 樹々の向こうに沈む夕陽。だがアイクは確かに太陽の手を取っている。
 引き上げてレテを立たせる。くすんだ外套が足元に落ちる。胸元に抱き寄せるようなかたちになったけれど、いつかのように、口付けを渇望する痛いほどの欲求は沸かなかった。額を寄せて、彼女の両手を包むだけで満たされていた。
「爪、痛くないのか」
「昔は訓練でよく剥がした」
「慣れれば平気ってもんでもないだろう」
「心の方が痛かった」
「……そうか」
 レテは、すとんとアイクの胸に頭を預けた。
 尻尾の影がゆらゆら揺れている。もう夜が来る。
「だけど、乗り越えると約束したから。ジルにも、ライにも――お前にも」
「力になれたか?」
「引いた手をまだ握っているくせに、よく言う」
 レテが顔を空に向けたので、アイクもつられて上を見る。
 夕闇の残滓の中に、星が瞬いている。
「――妹と」
「うん?」
「喧嘩をしていたんだ、長いこと。くだらないことだよ。ずっと意地を張っていた」
「けど、大切なんだろう?」
 アイクはレテの首から伸びる緑のリボンを、左手ですくった。妹にもらったと言っていた、片時も離さない彼女の印。
 レテは静かに頷いた。先についた鈴が小さく揺れる。
「そう、ちゃんと伝えたいと思う」
「だったら、なおさら俺の傍を離れるなよ」
 アイクはリボンごとレテを抱きすくめた。レテは意外そうに身を反らしたが、抗わなかった。
 腕に力を込める。
「絶対に死なせない。レテ」
「言われずとも死なんよ。お前の方こそ、私から離れるなよ。アイク」
 くつくつと笑うのが皮膚越しに分かる。ああ、とアイクは目を閉じる。
「そうさせてもらうさ」
 呟くと、レテは笑って背をさすってくれた。
「帰ろう。みんなが待ってる場所まで」
「ああ。一緒に帰ろう」
 身体を離す。繋いだ手を振り払わずにいてくれることが嬉しかった。
 とても自然に思えたけれど、何故だかとても切なかった。