高葉ヶ丘

櫻にカナリヤ

【中編】
桜原皓汰、二十九歳。都会にぽつりと残った古い家で父と二人暮らし。
このまま、なんとなく滅んでいくのだと思っていた。家も、親父も、俺も。
そんなある日、父の応援する選手が引退会見で婚約を発表。お相手はどうも――皓汰!?
嘘だらけで、とても優しい、苦しまぎれの愛の唄。

面目

最後の夏は、多少なりともドラマチックに終わるものだと思っていた。
竜光は誰もいなくなった部室で、捕手向けと褒められた大柄な身体を丸めてプラスチックコンテナからキャッチャーマスクを拾い上げる。

傘を咲かす

未紅は雨に濡れて帰るのが好きだ。むやみにテンションが上がる。
みんなが傘を差しているほど手ぶらなのが楽しくなってしまう。
シンギンザレイン。普通に生きていて、服ごと濡れる機会が他にあるだろうか?
ゲリライベントは全力エンジョイに限る。

運想

壁にかかる60インチ4Kテレビ。為一は新居のフローリングに座って真っ黒な画面を眺めている。
結婚しよう――たった一言で二年に及んだ同棲は終わった。三つ上の彼女を喜ばせるはずだった幻想のために。