短編

理屈屋クッキング

エプロン姿の理奈は、雅伸の顔から視線を外そうとしなかった。
雅伸は妹を直視できず、間を隔てるテーブルに目を落としている。
理奈の好物である鶏の照り焼き……になる予定だった塊は、皿の白さを引き立てるほど真っ黒だ。
「見てやる、って言われて本当に見てるだけだとは思わないじゃない」

やさしくしたい

首吊り。ばらばら。串刺し。丸焦げ。
少女たちはいかにして死体となったか。
犯人探しも謎解きもない、乙女の秘密を紐とくだけの些細な物語。

留年旅行

マンションのエントランスにゴルフに行きそうなオッサンがいると思ったら彩人だった。
「おはよ、あっちゃん。今日も十八歳とは思えない格好してるね。またお父さんのクローゼットから勝手に服借りたの?」
「そういう慶ちゃんは今日もまるで小学生だな。その原色のセーター、レゴブロックみたいで似合ってるぞ」

空論を廻す

声高に配慮を求めてトラブルになってしまう生徒がいる、と皓汰にこぼしたのは、一月二日の午後だった。
元旦に実家に戻って翌日の義実家。今に比べればおおらかに帰省ができた頃だ。
侑志と皓汰のいる和室には火鉢。炭が爆ぜていた。部屋の隅まで届ききらない丸いぬくもりから外れないよう二人で身を丸めていた。

櫻にカナリヤ

【中編】
桜原皓汰、二十九歳。都会にぽつりと残った古い家で父と二人暮らし。
このまま、なんとなく滅んでいくのだと思っていた。家も、親父も、俺も。
そんなある日、父の応援する選手が引退会見で婚約を発表。お相手はどうも――皓汰!?
嘘だらけで、とても優しい、苦しまぎれの愛の唄。

ピアノの顔

あった。椅子の座面からお気に入りのペンを拾い上げ、琉千花はほっと息をついた。
振り返って授業後の音楽室を見回す。空っぽだ。これから昼休みだが、高葉ヶ丘の軽音部は時間外練習をするほど熱心ではないようだった。