運想

 壁にかかる60インチ4Kテレビ。為一は新居のフローリングに座って真っ黒な画面を眺めている。
 結婚しよう――たった一言で二年に及んだ同棲は終わった。三つ上の彼女を喜ばせるはずだった幻想のために。
 残されたソファがテーブルが全て神経に障って、為一もすぐに住処を移した。運び込んだのは服や雑貨、SNSの懸賞で当たったテレビ。フォロー&RTのキャンペーンが詐欺でないと初めて知った。その幸運と驚きを分かち合う相手はもうない。
 彼女の望む妥協を続けることと、本音の末に別れた今とどちらが正しかったのか。悩むぐらいで正解が分かれば楽なのに。
「割に合わんね」
 寄りかかる段ボールの山はほのかにあたたかかった。