眠罪

 眠るように息を引き取る、とはよく聞くが、男は死ぬように眠りにつく。
 意識を失う(きわ)に喉を掻きむしる。
 奇行の記憶はない。朝、妻の涙と爪に詰まった鉄錆色でそうと知る。
 肌を這う鈍い疼きはあまりに日常で忘れてしまった。
 男は人の命を奪ってきた。相手は一様に悪人であった。悪人でなければならなかった。
 だが法の下の『正義』も手垢のついた『因果応報』も、詭弁も欺瞞も眠る前の無意識には一切の別なく無意味だった。
 弁護士の父に逆らい検察官になることの意味など、重々承知のはずだったのに。
 死刑を×回求刑した。■回立ち会った。**人、自死に追いやった。
 今夜も見えない縄が喉元に絡みつく。
 永眠させた分だけ彼は眠れない。