忌み枝を抱く
建て替えた桜原家に初めての春が訪れた。見下ろす桜も心なし初々しい。父が生まれた記念に植えられたものだから、本当は皓汰よりずっと年上なのだけれど。
短編三住椎弥,桜原皓汰,高葉ヶ丘
この突き刺さる青の小さな破片ひとつでも
九回裏はなかった。後攻の相手校が三回に二得点を挙げ、先攻の高葉ヶ丘は一回から九回まで〇点を連ねた。熱い攻防もなく奇跡的な逆転劇もなく、侑志たちにとっての夏季大会は淡々と幕を閉じた。
短編井沢徹平,新田侑志,高葉ヶ丘
眠れぬ夜に
「雅伸くんって、お薬ないと絶対眠れないんですか?」
妻の質問は実に唐突だったから、雅伸はシートから押し出した錠剤を床に転がしてしまった。
短編相模雅伸,紺野未紅,高葉ヶ丘
千々ノ一夜迄
「『しんど百物語』、やってみませんか?」
またおかしなことを言い出した。雅伸は眉をひそめて、隣に寝転ぶ女を見る。紺野未紅はベッドにうつ伏せになって、膝から下をぱたぱたと動かしている。
短編桜原朔夜,相模雅伸,紺野未紅,高葉ヶ丘
赤を囲う
【中編】
その日、兄が飛び降りた。理由は知らない。
感性。出生。性愛。外見。疾病。「普通」でない人たちが自分の色と在り様を見つけていく短編集。
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渇仰
八月。全国の球児が沸く季節。この大切な時季に『違和感』なんて低レベルな嘘がまかり通るほどには椎弥はチームに貢献しているし、練習を放り出しても構わないほどに妹と幼なじみが大事だった。
短編三住椎弥,井沢徹平,高葉ヶ丘
写真
「朔夜さんって写真撮らないよね」
君はスマートフォンを私に向けて呟いた。陽光にきらめく海から視線を外し、私はレンズではなく君の目を見る。
短編新田侑志,桜原朔夜,高葉ヶ丘
習作――卒業間際
卒業を間近に控えた面々。感傷と焦燥と諦念の瞬間。
短編井沢徹平,富島彩人,新田侑志,早瀬琉千花,桜原皓汰,永田慶太郎,高葉ヶ丘
異文化コミュニケーション
高級ブランドスーツの上着は、チークの椅子の背に無造作にかけられている。
指を突っ込んでネクタイを外しているところで着信に気付き、彩人は眉をひそめた。
短編富島彩人,桜原皓汰,高葉ヶ丘
太陽の在り処
藍色の雨空を海のようだと美映子は思う。天地が引っくり返って、逆さまの海から水がこぼれている。それはとても不自然な在り方で美映子はいつも不安になる。
短編桜原太陽,藤谷美映子,高葉ヶ丘
紅茶とキャンディ
「ひとつ忠告しとくぞ」
振り上げた右手は空中で掴まれて、頬まで届くことはなかった。彩人は聡子の手を放さずに淡々と言った。
「眼鏡かけた奴の顔を、不用意に狙わないことだ。弁償させられたくなけりゃな」
短編富島彩人,永田聡子,高葉ヶ丘
パンクした重い自転車
雅伸は必ず制服でそこに行く。時間に余裕があっても着替えては行かない。私服で行ったらその服にケチがつきそうな気がしている。気分的な問題だ。
短編相模雅伸,高葉ヶ丘