レオン – 天空交差

暗夜王妃ヒノカは、寝所の鏡の前で短いなりに髪を梳っている。戦姫と呼ばれた彼女にも、まだ残っている女らしい習慣の一つであった。
同じ部屋で暗夜王マークスは、盛大に嘆息した。

「もう白夜ですね」
サクラは分かりきったことを何度も言う。その度レオンは、そうだねと返す。
「あなたの故郷だよ」

「この戦が終わったら、あなたはどんな世界が見たいの？」
レオンの問いはあまりに唐突で、サクラは上手い返事が出来なかった。

「あっ、こんにち……いらっしゃいませ！」
食堂に入るなり、白夜王国の第二王女であるところのサクラが頭を下げてきた。
レオンは嘆息して腕組みした。

思えば自分らしくはなかったのだろう。けれどサクラは、勇気を出して兄たちに言い出した。
「私も、前線へ連れて行ってください！」

「そういえば、あなたはどうして髪が短いの？」
レオンが問いかけると、王女サクラはきょとんと目を開いて小首を傾げた。

アイクはそれなりにそれなりの経験をして、テリウス大陸を旅立ったはずだった。
女神の力で他の大陸を失い、海にぽっかりと浮かぶ最後の島々。それにさえ、知らなかった砂漠の向こうの国が存在したように、この遠い世界も傭兵砦で剣を振るうだけだった幼いアイクには想像もできなかった。

「閉じ込められたみたいね」
ひどく落ち着いた声に、レオンははっと振り向く。
闇に目を凝らしてみると、壁際の木箱の上に、十を少し過ぎた程度の少女が腰かけて、悠然と微笑んでいた。

合同誌『花衣を君に』のWEB再録です。レオンとサクラが、互いのきょうだいたちに支えられながら大切な気持ちを確かめていくお話。
レオン視点を氷上涼季・サクラ視点を白井章子さんが担当しました。