講堂の床にお守りが落ちていた。俺と同じ受験生のものだろうか、拾ってあげた方がいいよな……。
『お兄ちゃん絶対合挌!』
どこか違和感。
「ありがとう」
知らないお兄さんが俺の手からお守りを抜き取る。やけに落ち着いているけど浪人生かな。
「漢字間違ってただろ。妹のバカが君に移らなきゃいいけど」
あ、『合格』!
俺はポケットから真っ赤な小袋を出してお兄さんに見せた。
「いや、これもなかなかなんで!」
『お只ちゃん ガソバレ!』
「おただっ」
お兄さんはひとしきり肩を震わせ、やがて軽やかに俺の肩を叩いた。
「お兄ちゃんはつらいね」
「そうでもないです」
俺は苦笑してお守りをしまう。
だって、おかげで次の春が待ち遠しくなった。