0.英雄の帰還
「梨深」
「うん。わかってる」
彼女は彼の背に両手を添えた。彼は小さな声でしきりに毒づいている。
「こういうのは僕の柄じゃないのに……帰りたい……この際別に家じゃなくてもいい、コーラ飲んで落ち着いてネトゲ出来れば、もうそれで……」
「タク」
「わ、わかってる。覚悟ぐらい決めさせてくれたっていいじゃないか」
並ぶ敵影。彼は『妄想の剣』を上段に構える。刀身が仄赤く輝き、吹き荒れる風が、目深に被ったフードを激しく押し上げる。彼は素顔をさらしながら、普段なら他者から逃れようとする瞳を、真っ直ぐ前に据えた。
「やるよ。やるしかない。だって」
彼女の『翼』が開き、真白の燐光を放つ。彼の口唇はただはっきりと、残酷な事実を告げる――。
「××の、望んだ妄想だ」