仮想彼岸のフローラルトリビュート

 神成岳志は、黒いスーツに黒いネクタイで、その場所を歩いていた。
 遮るもののない陽射し。石の照り返し。樒の緑。線香の匂い。腕の中には七本の白いキクを束ねた包み。
 いつも訪れているはずの――いつも? 初めてだったか?――場所で、知っているはずの――本当に知っていたのだろうか? ただ『判る』だけ?――区画に向かって、ゆっくりと歩いていく。
 今は『2016年のはず』。あの惨劇の起こる直前の渋谷のように、空は青く眩しい。