文体練習(51~60)

『文体練習』レーモン・クノー 著・朝比奈浩治 訳
 バスの中で起こった出来事を99通りの文体で書いた本。

 この本の真似をして、(ほぼ)毎日一題文体の練習……というより実験をしていく企画です。

 

51 無造作  2022/12/12


 侑志は進路指導室に入る。
 井沢も入ってくる。
 ――よぉ、優等生。
 ――おはよう。
 井沢が本に手を伸ばす。
 警察関係の本だ。
 ――警察官を目指すのか。
 ――果てはお互い公務員だな。
 ――そうだな。
 侑志は呟く。
 沈黙。

【感想】
 コロナですっかり間が空いてしまった。
 今日からまた少しずつ。

 

52 偏った見方  2022/12/13


 一人の男子生徒が進路指導室に入っていった。高校生の悩み事といえば性か進路と相場は決まっている。
 誰も見ていないのに涙ぐましくも、男子生徒は内心点稼ぎの片づけを敢行する。
 男子生徒は大学案内を手に何やら考えている。堕落したキャンパスライフの妄想か、教育学部ばかり調べているところを見るに、小児性愛者の可能性もある。人間、特に男は性欲抜きにすすんで勉強などしないようにできているのだ。
 もう一人、別の男子生徒が入ってきて、警察関係の本を手に取った。
 先にいた男子を牽制しているのだろう。男の中にも性欲で動かない者はいるが、そういった連中は往々にして正義という名の顕示欲に支配されている。
 情けない限りだ。ああ、これだから人間というものは。

【感想】
 冗談じゃなくこういう考え方の人いるので困る

 

53 ソネット  2022/12/14

 朝も早くに 廊下抜け 進路指導の 部屋に来た
 男子生徒の 髪の毛は 光に透けた 赤茶色
 同じ宝石 目に宿し 大学案内 読んでいた
 いつもは交ざる 朝練も 今日は遠くに 響くだけ

 飽かず頁を 繰るうちに 別の学ラン 戸をくぐる
 優等生と からかうも 見知った仲なら 常のこと
 半歩譲って 並び立つ 凸凹の背や 似た日焼け
 伸ばした指に 触れている 公僕の本 目に留まる

「そしていつかは 警官に?」 尋ねる声も 淡々と
 答える笑みも また静か 「公務員なら 互いだな」
 穏やかに降る 沈黙が 肯定をする その未来

 茶色を帯びた 少年も 黒を纏った 少年も 
 白球追う空 この先は 別に進むと それだけは
 言わずと知れた ことだった 言いたくはない ことだった

【感想】
 ソネットは十四行詩。
 お手本の訳が7・5・7・5字の4・4・3・3行だったのでそれに揃えることに。
「33 アレクサンドラン」みたいな感じ。
 韻までは踏めなかった。

 

54 嗅覚  2022/12/17

 進路指導室に入ると埃のにおいがした。
 生徒たちが交代で掃除もしているはずなのに、この部屋はいつもどことなく過去の香りがする。積み重なった記録がそう思わせるのかもしれない。
 無香料の消臭剤で除菌した制服に身を包み、侑志はインクのにおいの残る本を読み始める。
「よぉ優等生」
 井沢が開けたドアから陽の香りが滑り込んでくる。歩み寄ってくる井沢からは化学繊維と微かな汗のにおいがする。
 なにか嘘くさいような胡乱な会話をした。
 まだ届かない春の香も、只中になってしまえば鼻を覆うほどの青さなのだろう。

【感想】
 なんか途中で疲れちゃって……どうにかこうにか締めたという感じ

 

55 味覚  2022/12/18

 秋の朝はほろ苦くて遠く甘酸っぱい。
 水気を帯びた青い春を食み、熱く塩辛い夏を噛み、白く冷え切った冬の前に喉を通る季節。
 えぐいインク味の本を手に、侑志はまだ味蕾に届かない未来を想像する。
「よぉ優等生」
 現れた井沢の言葉は角張って舌の上を転がる。
 緩いわだかまりを渋く飲み込めるまであと少し。

【感想】
 味覚て……(途方に暮れた顔)
 変態っぽい表現にならないように気をつけた。
 よく見たら嗅覚と同じような表現のところがあるな!

 

56 触覚  2022/12/19

 二年になってもまだすべすべの学ランを着て、君はつるつるの床をゴム底の上履きできゅっきゅと歩いていく。
 スライドドアの引手は金属。指をかけるとひやっとする。
 つやつやの表紙が滑り落ちないよう手で支えて、いくらかざらついた紙をめくっていく。頁の厚みが指紋に咬む。ぱつんと皮膚を弾いて次へ行く。
 窓辺の様子は気にも留めない。
 カーテンはごわついている。太めの糸で編まれた重い布は、がっしりと硬いタッセルでまとめられている。くすんだ窓にもし触れたなら、指先は素っ気ない冷たさで押し返されただろう。窓枠の手触りは、ほんのりあたたまった粗い凹凸。

【感想】
 お手本は「バス全体を愛撫する何らかの巨大な存在視点」というよくわからないことになっていた。
 それ触覚ではなく擬音では? みたいな表現があるがどうか見逃してほしい。

 

57 視覚  2022/12/21

 内側には生クリームのように滑らかなライトグリーンが塗りつけてありました。
 銀縁の枠には、雨の鱗が残ってくすんだ、最初は透明だった板。それを覆うもったりと重い布は、黄ばんでいるのではなく、もともとアイボリーでした。
 焦げ茶色の短い毛束は、光の加減で赤銅のようにも感じられます。しっかりした黒い生地は、羊毛の落ち着きと化学繊維の光沢が入り混じっていました。縫い付けられた二本の円柱の奥から、ぱりっとした白い布地と半透明のボタンが覗いています。
 高い背に相応の大きな手は日に焼けて、どんな未来もつかめそうです。
 未来。幾星霜を過ごした宝石のような瞳に映る未来。それはレンズフレアを思わせる眩しい球体? 何にでも変わるまっさらでやわらかい紙粘土? 何もかも透けてみえるようで、その実、光を曲げてしまう純水?
 誰にも見えはしません。見えたときには、それはもう、

【感想】
 ですます調はお手本が移った(無意識だった)
 色の話ばかりしてしまったが、視覚から得られる他の情報も書けるようになりたい……
 質感とか形とか? お手本に比べると立体感がなく、のぺっとしているかも

 

58 聴覚  2022/12/25

 秒針は細かく舌打ちしている。
 本たちは定位置に戻るとき、コン、コン、と机を鳴らした。
 頁は空気を巻き込んでしゅるりとめくれる。
 呼気の中には葉擦れのように軽くて浅いため息が混じっている。
 井沢の挨拶、スケルツァンド。返す侑志はカルマート。
 二人の会話はマイナーコード。誰も知らずにデクレッシェンド。

【感想】
 お手本でもそうだったのでつい真似してしまったが、音楽用語並べるのは聴覚と違うのでは?

 

59 電報  2022/12/27

 ユウ シキタリ テホン ヨ ムダ イガク ミテ イトモ ハシンロ ベツイザ ハケイ カンユウ シキョウ シイズレ モコウ ムイン

【感想】
 電報といえば「ぎなた読み」かなぁ、と思ってやってみた

 

60 歌の調べ  2022/12/28


 侑志が来たのは
 進路室
 大学案内
 さぁ読もう

 井沢が来た来た
 警察の
 本を読みたい
 みたいだね
 警察官に
 なりたいの?
 お互いさまの
 公務員
 
 侑志も教師に
 なれるかな
 一緒に公僕
 なれるかな

【感想】
 5・7・5・7・5・7……のやつ
「33 アレクサンドラン」「53 ソネット」などと比べると語調が軽い感じ

 

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