電車が隣駅に停まり、初夏のまぶしさを切り取ったような白がいくつも飛び込んでくる。
帝都帝王大付属のセーラー服。三月に消えた女生徒と同じ制服。薫が通学服にセーラーの要素を取り入れた理由のひとつだ。被害者の服装に近いほど、薫が次の標的になる確率は上がる。
「お花ちゃんは、カレシとかいるのかい?」
朝のラッシュではまともに口説けないと踏んだのか、夜来は翌日から夕方に現れるようになった。壮花駅の円環線のホーム、薫の降りた場所で待っていて、当然の顔をして一緒に電車に乗ってくる。
「すみません。なんて?」
「カレシ。それだけかわいいといるんでしょ?」
「やだぁいませんよそんなの」
完璧スマイルで自動応答メッセージを発信すると、へぇ、と夜来は好青年のマスクを歪め下卑た地肌を覗かせた。
「俺もフリーなんだ。いたけど別れた」
「へぇー」
訊いてないし、と内心でツッコみつつ微笑んでいると、薫たちより先に乗っていた女子高生の三人組が騒ぎ出した。特別地味でも華やかでもない、集まると気が大きくなるタイプの普通の若者だ。
「そいつドーテー? 引くわー」
「大学生で童貞とかありえんくない?」
「ちょっ、大声で言うなしー!」
薫にとっては慣れたノリ。構わずに、体育のせいで少し欠けたネイルを反対の手で撫でる。
一方夜来は荒い息で三人組を睨みつけ、閉まったドアを拳でしきりに叩いていた。
薫は瞳を潤ませ、上目遣いで夜来を見る。
「あの、どうかなさったんですか……?」
「ああ、ごめんね」
夜来は仮面を被り直そうとしたようだが、作った笑みは無様にひきつっていた。
「特定の経験の有無で人の価値を決めようなんて品性を疑うな俺はべ、つにそうではないけど人間を、偏った価値基準で判断するのはひどく愚かで軽、はずみだとそう思うだろ?」
極端な早口で、かつ不自然な息継ぎだった。薫はできるだけさりげなく、そうですね、と答えて口を閉ざす。夜来はしばらく女子高生たちの発言が不当であるという主張を続けていたが、やがて残弾が尽きたのか黙り込んだ。
次の駅で三人組のうち二人が降りて、残った一人はイヤホンを装着した。車内が静まり返る。薫はドアのガラス越しに、表情の抜けきった夜来を見ている。
赤い夕陽が床一面をさっと走っていく。
近いうち仕掛けることになるだろう。
向こうも、こちらも。
「では、ごきげんよう。夜来さん」
薫は壮花から内回りで四つ目の
本当の最寄りは、壮花から外回りで四つ行って乗り換え。『白雪王子』の被害者が通学していたのは全て壮花と初内の間にある学校なので、目につきやすいよう同じ区間内で張っていたのだ。
地下通路を突っ切って別のホームに上がり、最寄りの近くまで運んでくれる電車を待つ。
手首の内側の時計を見る。ウサギの跳ねる文字盤、針はもう夕方を指している。薫は小さくため息をついた。
月子が何事もなく帰っていればいいけれど。