エピローグに代えて 桜原朔夜編
【中学校一年生】特記事項なし
ソフト部に入部。ファーストへコンバート。
同じクラスの椿直也に絡まれる。
【中学校二年生】皓汰が椿に目をつけられた頃
皓汰入学。野球部へ入部。
私の弟というだけで理不尽な目に遭う。
皓汰は私に何も言わない。
椿との一打席勝負。
私が勝ったことにより、皓汰の立場が悪化。
小学校のときと同じ過ち。
ソフト部を辞める。
【中学校三年生】皓汰が私を叱りつけた頃
皓汰は毎日ぐったりして帰る。
その成績でどうするんだと、親でも言わないことを私に言う。
そんなんじゃタカコー受からないと言うので、タカコーなんか受けないと返す。
「じゃあ俺は何のために野球してるんだよ」
高葉ヶ丘で朔夜と野球をするために今の仕打ちに耐えているのに、と皓汰は怒りながら泣いた。
高葉ヶ丘を受けることを決める。
【高校一年生】特記事項なし
無事入部。
【高校二年生】私が皓汰に関する事実を知った頃
皓汰入部。
皓汰は選手である。私は選手ではない。
私は皓汰ではない。
しかし皓汰は、
私 である。
夏の予選が近づく。椿が脅しに来て、皓汰がひどく怯える。
殺したいほど憎い。
私は皓汰を通して初めて私を見る。
皓汰は私の代わりに私になって野球をすると言った。
あそこにいるのは、存在したかもしれない私。
では、ここにいる私は何なのか。
非公式の背番号13。桜原太陽の息子の影。
新田が家に来る。
お茶を持っていこうとして、皓汰との会話を聞いてしまう。
皓汰は椿を信頼している。私が殺したいほど憎い椿を。
ずっと皓汰を苦しめてきたはずの椿を。
私の信じてきたことと、皓汰の思っていたことは違う。
当たり前の事実に気付きたくなかった。
知れば私は像を結べなくなる。
皓汰は私ではなく、私は皓汰ではない。
私たちは恐ろしい速さで互いから離れていく。
皓汰は私ではなく皓汰である。
私は皓汰ではなく、
私 などない。
【高校二年生】皓汰が皓汰であり始めた頃
対塩川。七回コールドで勝利。
試合後、椿は皓汰の胸にバッティンググローブを投げつけた。
皓汰は受け取って深く礼をする。
椿は、白いのをやったんだから黒いのを寄越せと言う。
皓汰は笑って自分のバッティンググローブを手渡す。
椿は去り際に皓汰の頭を叩いて、私をブス呼ばわりしていった。
皓汰はおかしそうにしていた。
一分一秒、息をする間にも皓汰は私でなくなっていく。
私は皓汰と重なることをやめるべきだと思う。
けれど「次も勝つからね」と皓汰が言うから、
私はまだこの子を縛り付けておきたくなる。
「もちろん、私の弟なんだからな」と強調せずにはいられなくなる。
皓汰は私とした約束を覚えているだろうか。
今でもまだ私であろうとしてくれるだろうか。
私は皓汰のかたちを保てるだろうか。
そうであってほしい。
せめて、負け犬たちが鎖から放たれる日まで。