科学ADV

気化する絶望

 新聞部の部室前。ドアのガラススリットから光が漏れており、見回り途中の和久井修一はため息をついた。ここの部員は本当に面倒な生徒しかいない。「誰だーい、こんな時間まで居残ってるのは。下校時間はとっくに過ぎているよ」 いかにも模範的な教師らしい…

楽園追放 ―Children’s AnotherEden―

宮代拓留は渋谷に帰ってきた。久野里澪も。
目的もない人生だが、それでいい。何事もない日常を望んでいた。望んでいると信じていた。あの男が再び現れた、ある秋の日まで。
罪に果ては、罰に終わりはあるのだろうか。彼らは自身にまだ問うている。

仮想彼岸のフローラルトリビュート

神成岳志は、黒いスーツに黒いネクタイで、その場所を歩いていた。
遮るもののない陽射し。石の照り返し。樒の緑。線香の匂い。腕の中には七本の白いキクを束ねた包み。

不知不会の二者面談

「どうせだらけているのなら、ホテルに戻ればいいではないか」
岡部倫太郎がドクぺを飲みながら呆れ顔で言った。自分こそこんな時間まで紅莉栖に付き合うことなどないのに、律儀なことだ。紅莉栖は右腕を緩慢に上げて、テレビを指差す。
「消して。『再来』のニュース、耳障りで」

不言実行修行中

大徳淳和と交際するにあたって、彼女の父親から提示された『空手の初段習得』という条件を海翔はまず真っ先に蹴った。
愛がどうこうとかそういう精神論ではないのである。彼女の為なら命でも懸けるとか歯の浮く台詞は、(もし使うことがあるとして)ここぞというときに発するべきものであって、犬死にの言い訳に持ち出すものではない。