CHAOS;HEAD

仮想彼岸のフローラルトリビュート

神成岳志は、黒いスーツに黒いネクタイで、その場所を歩いていた。
遮るもののない陽射し。石の照り返し。樒の緑。線香の匂い。腕の中には七本の白いキクを束ねた包み。

及び腰の残影

「三住は全然変わらねーなぁ」 「いやー、変わったろ? よりいい男になったっつーか」
「はっは、ウゼー」
高校卒業から十年。同期との会話のテンポは、確かに高校の頃と変わらなかった。

翠雨の頃

「座って何か飲んだらちょっとは落ち着くよね。タクが行きたいカフェってどっち?」
「か、カフェっていうかコラボカフェ、レコード屋と併設の……何でそんなオタクと対極のとこでやるんだよ、馬鹿なの死ぬの!? 限定描き下ろしグッズの星来があんなに神ってなければこんなとこ来なかった!!」

第三夜

病院は嫌いだ。何度訪れても慣れることがない。諏訪護はこの清潔すぎるハコの中で、薬品の臭いに眉をひそめる。
「あら。おかえりなさい、護」
「ただいま、志乃」

片手の行き先

判安二は、雑居ビル内の金属製のドアに寄りかかり、うとうとと舟を漕いでいた。
2006年9月25日。東京都渋谷区の天気は晴れ、最高気温は25度近いそうだ。

赤い祝福

乾ききった霞ヶ関から、丸ノ内線で新宿まで寄り道。二〇〇七年も十二月の街はクリスマスムード。
諏訪はこの雰囲気が嫌いではない。