日野森志歩

アルペジオ

――なんだ、今日は誰もいないのか。志歩は軽く落胆して足を速める。
すると、志歩の二倍は早足でピアノに向かっていく人影があった。
彼は乱暴な手つきで椅子を引く。大股でどっかと座って両手を鍵盤に叩きつける。勢い任せの騒音は、一秒と待たず整った旋律になった。