もう名前も呼べない貴方へ
あの人はエリンシアの人生に不意に現れて、同じように不意に消えてしまった。
一度もその言葉をくれることのないまま。きっと、エリンシアがどの季節に生まれたのかさえ、彼は把握していない。
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残照
エリンシアが上がっていくと、アイクは城の屋上の弓狭間から、遠い空を見ていた。
「あんたと初めて会ったのも陽暮れ時だった。ドレスも夕焼けで染めたみたいな色に見えたな」
「――夕焼けなんて、なんだかとても寂しいみたい。闇を切り裂く、力強い夜明けの方が、きっと皆も頼もしいでしょう」
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その国の翼
緑の髪の少女が、眩しそうに天を見上げていた。ベグニオン王宮に留まっている彼女は、雇った傭兵団の留守中、神使に呼ばれていないときはああして中庭で空を見ている。
「どうかなさいまして? エリンシア姫」
「シグルーン様」
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世界の軸
「お荷物とはまさにこのことですね」
セネリオの口にしたつまらない皮肉に、目の前の『クリミア王女』は曖昧に口許を動かした。
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