「
君はスマートフォンを私に向けて呟いた。
陽光にきらめく海から視線を外し、私はレンズではなく君の目を見る。
「写真は好きじゃない。嘘つくから」
海風がスカートをはためかせていく。
君が選んでくれた華やかな色のロングスカート、マキシ丈と書いてあったのに、のっぽの私が着るとふくらはぎまで覗いている。
『それも可愛いよ』と笑う君の優しさなら得意げに暴くだろうけれど、写真は基本的に嘘ばかりだ。
「だって海が見えたときのテンション上がって指差しちゃう感じも、いざ近づいていくとわけもなく泣きたくなる気持ちも、写真はなんにも取っておいてくれないじゃん」
「なのに一丁前に本物面するって?」
君は手帳型のカバーを閉じてスマホを鞄にしまった。私は下を向いて笑みを隠す。
例外。君が撮る縦型の写真は、本の挿絵みたいで嫌いじゃない。
君の正面に立って左手を取る。利き手の指先はひんやりと乾いている。
「いつか人間は、写真が取りこぼす感覚も全部小さく閉じ込めて、持ち帰れるようにしちゃうのかな」
「それで好きなときに再現するの?
君が自分で吹き出した冗談の意味を私は知らない。
聞いても分からないだろうし君も逐一説明しない。
いつものことだから。いつもの諦念と気遣いの結果。
「だとしたら、朔夜さんはそれ使いたい?」
「どうかな。出来による。
薬指の銀色をいじる。人類は絶滅するまでの間に自らの脳を解明できるか。
興味はない。どうせ私がいなくなった後の話だ。
それでも君は馬鹿げた仮定に真剣な答えをくれる。
「俺は、毎年こうやって朔夜さんと海に来る方がずっといいな」
私も。やがて最初の感情が薄れていったとしても、ずっとこの場所で君をつくる要素を取り込み直したいよ。