14話 Faker’s Foolish Fest. - 10/10

エピローグに代えて 三石潔充編

 文化祭って高二のときが一番楽しかったな。
 何やってもよくて。

 最初はにゃーたちのとこ行った。
 レイジとおかもと三人で。
「女装似合すぎじゃね?」
 って言ったら、
「カーチャンと似すぎてる」
 っつってイヤな顔してた。めちゃくちゃキレーだった。マジで。写真で見返しても美人。かっこいいっつーより女顔だったな、やっぱり。
 朔夜もイケメン執事ってやつだった。レイジが「朔夜はメイドの方が性別逆転っぽい」つってブッ叩かれてた。オレはおかもと二人でウケててなぐられた。
 それから、おかもたちは坂野の焼きそば食ってくるっつって、オレは出番だから教室戻った。
 うちのクラスは、教室で漫才とライブ交互にやった。
 オレは兄貴にもらったアコギ弾いた、松本と。ギターは松本じゃねえのかよ! とか言われながら。松本はキーボードだった。
 この日は確か、松本がやりたいっつった19の『あの紙ヒコーキ』からかな。あの曲キーボードないのにな。ないからか。ハーモニカは別のやつが吹いてた。
 深春先輩が、来てくれた。
 夏休みに誘っといてよかった。
 オレがやりたかった
 ユーミンの『ハロー・マイフレンド』
 目の前で弾いた。

 オレの恋した夏は短くて
 先輩の友達にもなれないまま
 もう二度と会えなくなるけど
 嬉しかったよ
 オレの歌で泣いてくれて
 別の人を想いながらでも

 クラスの女子にリクエストされたキンキの『全部だきしめて』は盛り上がった。深春先輩も、一緒に来てたユキさんも笑ってくれてオレも楽しかった。
 三曲終わったら、次のやつらと替わって松本とたこ焼き食いに行った。
 おかも、たこ焼き焼くの超うめーの。
 味もうまかった。たこちっさかったけど。
 一日目は多分こんなもんかな。
 カントクとコーチ来てたらしいけど、オレは会ってねーや。
 あと、新田も坂野も井沢もカノジョ連れで回ってて永田もるっち誘った? とか聞いたけど、あいつら知り合いさけてたっぽいから見てない。
 リューさんはユキさんと時間合わなかったらしい。三年生は舞台あったから。
「ユキちゃんはあたしと文化祭デートなの!」
 っつって深春先輩に自慢されたからそれは覚えてる。

 そうそう、三年生の出し物は全クラス劇。
 一般公開の前とその前の日に「若葉祭」っつー在校生だけの前夜祭が二日あって、オレたちはそのとき見た。
 深春先輩のクラスは『人魚姫』で、主役のユキさんがすっげーキレーだった!
 にゃーの女装は未亡人ぽくてエロいけど、ユキさんは透明感とか美少女とかそういう感じでキレーのタイプが違う。
 人魚姫は足のかわりに声をなくすんだけど、手話を覚えて一生けんめい王子と話そうとしてた。お付きのおねーさんも手伝ってくれてちょっとずつ王子も姫の言ってることがわかってくるんだけど、王子はけっきょく別の女と結婚した。
 人魚姫は手話で
「おめでとう」
 って言って笑って泡になって消えちゃう。この演出すごかった。泣いた。
 台本は深春先輩だったんだって。すげーなぁ、この人好きになってよかったなぁって、ずーっと言ってた。
 おかもはうんうん頷いてくれてた。おかももこのとき失恋したばっかだったのにな。夏休み明けたら木田さんにカレシできてたって。
 自分がなろうとしてたわけでもないのにショックだって、泣きそうなくせに笑ってて、バカだし勝手だと思われるかもだけどオレも完全に同じだったから気持ちわかるよ。
 リューさんのクラスは高校生のラブコメだった。なんかオレの二番目の兄貴が好きなゲームみたいな、伝説の木の下で告白するやつ。
 で、リューさんは伝説の木だった。
 衣装、っつーかセット? 着て真顔で舞台の中央に立ってるだけ。ゆーたったら出オチなんだけど。
 その前で真面目にすれ違ったり恋が実ったりするから、客はみんな笑っちゃうっていう。よくあの役で押し切ろうと思ったよな。押し切られたけど。
 ノブさんは照明だったらしい。裏方が似合う。ショクニンって感じ。

 二日目はあさイチで坂野のとこ行って、レイジんとこ行ってかるたやって、だったかな。
 にゃーは一日目ずっとクラスでメイドさんしてたらしくて、
「今日はまわりが気ぃ使って午前中休ませてくれたよー」
 とか笑ってて、フツーは最初から終日シフトじゃないと思う。
 あいつ働きすぎなんだよな。今でも
「残業しすぎて上司に怒られた~」
 とか言ってるし。怒られるほど残業する? 帰っていいならオレは帰るよ。
 高校の話だっけ。文化祭二日目ね。
 おかもがシフトで抜けてる間に坂野とレイジ拾って、そのままみんなで回った。
 にゃーは
「着替えあるから」
 ってたこ焼き食ったら抜けたけど。歯につくから青のりとかつぶし抜きでって頼んでた。プロだね。
 で、一年の出し物回って、縁日とか迷路とかおばけやしきとか、こったことやってんなーって感心しながら、
 なんだろ、いろんなもん見たんだけど、
 なんでこんなに楽しいんだろってぐらい楽しかったことばっか覚えてる。
 ほんとはキツいことも、笑ってる場合じゃないこともいっぱいあって、
 でも
「こうしなきゃ」とか
「メーワクかな」とか思わないで、
 ただ、げらげら背中叩いてたのが楽しかった。

 オレはトリだったから三ヌケ。
 オフコースの『言葉にできない』から。にゃーのリクエストだったのにシフトかぶっちゃったから、あとで部室で聞かせる約束してた。
 この日は新田と朔夜も来てたな。朔夜のカッコ、昨日とちょっと違うって思った気がする。何がだろ。髪かな? オールバックじゃなかった。イケメンはどんなでも似合うからずるいやな。
 二人は教室の後ろの方で、手をつないでじっとオレの歌を聞いてた。
 ELTの『フラジール』。すれちがって傷つけ合ってた二人が、もう手を離さないって心に決める歌。

「愛しい」って言葉は
 まだ遠いかもしれない
 だけどつないだ手の強さが
「もうだいじょうぶ」
 って教えてくれんだ
 二人でもちゃんと歩けるだろ
 ずっと見てたから知ってるよ

 超盛り上がった『WAになっておどろう』の頃には二人はいなかった。
 オレは終了のアナウンスが鳴るまでずっとギター鳴らして歌ってた。
 夏の延長戦十五回みたいな、そういう文化祭が終わった。
 たぶんオレたちは幸せっていうやつだった。
 苦かった分だけそう叫んでいたかった。

 後夜祭をさぼって部室で小田和正を弾いてた。
 男に戻ったにゃーは半分寝てるみたいに静かに、でも真剣に聞いてた。
 レイジもいて、おかももいて、もう三年生は来ない部室。
 坂野は後から顔を出した。
「まだ弾いてる?」
 って聞いて、ラルクの『ザ・フォース・アヴェニューカフェ』をリクエストした。自信ねーなーと思いながらオレはどうにか歌った。
 歌詞なんかうろ覚えでケータイサイト見ながらだし、
 コードもわかんねーからノリで押し切ったのに、
 泣いてた。
 坂野は。
 何にも言わずに、
 ぼろぼろ泣いてた。
 おかもより、レイジより先に、
 にゃーが横から肩抱いてた。
「つらいよな」「がんばったよな」
 って、ずっと声かけて、いっしょに泣いてた。

 朔夜が坂野を好きになる日は来ないって、みんな心の中では思ってたんだろう。
 もしかして、坂野が一番それを知ってたのかもしれない。
 新田が現れたときから、ずっとこうなる覚悟をしてきたのかもしれない。
 にゃーはきっと一番、坂野に夢を見てた。みんなのためにもっとキレイにあきらめてくれるって信じてた。
 だけど坂野はちゃんとトドメがほしくて、だから、

「カラオケ行くか!」
 ってにゃーが叫んで、ギター抱えたまま五人でカラオケに行った。
 マイクの順番もみんなが知ってる曲かも気にしないで、
 なんで泣いてんのかなんで笑ってんのかわかんなくなるまで、腹減って動けなくなるまでめっちゃくちゃ歌ってさわいだ。
 たまたま通された上の方の部屋で、
 背もたれにあご乗せながら夜の池袋ながめて、
「秋が来るなぁ」
 って誰かが言った。
 秋はもう来てたって知ってた。
 オレたちがそのときやっと気づいたってだけ。
「来たなぁ、秋」
「秋、来たねぇ」
 終了連絡の内線も、虫の声みたいに響いてた。
 あんなカラオケは、もう二度とできないんだろう。
 若かったし、痛かった。
 あの頃のオレらがたまにうらやましい。
 忘れられない秋だった。