高葉ヶ丘シリーズ

長編 Evergreen

 

  • 1話 No.[10+1]

    「俺はもう、野球しないって決めたんスよ」
    新田侑志は都立高校に入学したばかり。帰宅部・無趣味・友達なし。漫然と日々を過ごす少年の眼前を、鮮やかな打球が切り拓く。

  • 2話 2nd Player

    野球部は人手不足で、侑志たちは勧誘をすることに。
    しかし既に入部していた一年生バッテリーは、集まってくる部員に納得がいかない様子。

  • 3話 It’s All Right

    二年生にいろいろなことを教わる侑志。
    部活外でも関わりを持ちながら、少しずつ野球部の色を知っていく。

  • 4話 Re:Start

    野球部に新しいマネージャー、しかも女子! 浮かれ騒ぐ男子たち、気合入ってます。

  • 5話 Taste Like Adolescence

    体育祭で部活はお休み。クラスで活躍してみたり、思い思いに応援したり。
    ああ、青春の味がする。

  • 6話 Trickstir

    生徒会副会長・八名川のお達しにより、試験期間中は勉強会を開くことになった野球部。
    一方侑志は図書委員の活動中、森貞の意外な一面を見てしまう。

  • 7話 Sweet Citrus

    突如襲来した他校の女子生徒・柚葉。富島と別れ話でもめ始め、そこには永田の過去も深く関わり……って、俺は関係ないですよね!?

  • 8話 Left-field

    お世辞にも巧くはない左翼手の先輩。お世辞にも巧くはない投手の自分。
    侑志は自らの立っている場所について迷いを抱く。

  • 9話 Short-ender

    地方予選初戦。相手校のエースと接触してから桜原の様子がおかしい。いじめのフラッシュバックを心配する侑志に、桜原はきっぱり「そういうことじゃない」と言い切る。

  • 10話 Ace in the Hole

    vs岩茂学園八王子。エース永田は、古巣との対決を前に苛立っていた。
    怒りの正体を紐解いていくうち、侑志は相手校のエースに違和感を覚える。

  • 11話 The Eleven

    監督と両親に面識があると知り、侑志は動揺する。
    井沢の心もまた、両親の過去によって追い詰められていく

  • 12話 Thirty Pieces of Sunset

    「気を紛らわすのに、野球はちょうどよかったんだ」
    置いてきた弱さからは逃げきれない。少年も、男たちも、彼女たちと向き合う時が来た。

  • 13話 My Buddy,My Blood

    突然OBチームと試合をすることになった現役生たち。それぞれの夏を終わらせるために、それぞれがグラウンドに立つ。
    一方朔夜は、自らに流れる逃れられない血を自覚し始めていた。

  • 14話 Faker’s Foolish Fest.

    朔夜のある決断により野球部は絶望的な不和に陥る。侑志の選択もまた糸を複雑に絡めていく。
    嘘つきたちのすれ違いは、祭の熱の中で収束へ向かう。

  • 15話 Never Never Never Surrender

    大きな危機を乗り越えつい浮つく侑志。その裏で、深い闇が八名川を捉えようとしていた。
    ――奪うならオレを奪え。絶対に、オレ以外を奪ったりさせない。

  • 16話 The Reliever

    皓汰の様子が最近おかしい。って、「修学旅行」? お泊まり会in桜原家!?
    好きとかキスとか。血とか無知とか。俺たちは次の季節へ向けて変わり始めているんだ。

  • 最終話 Near Evergreen

    周りが未来を見据える中、朔夜は自分だけ進路を決められないことに焦る。
    「君はちゃんと、一人で夢を見ているの? 見ていく強さを持っているの?」
    永遠の名を冠した緑の、最後の種明かし。

  • Evergreen人物紹介

    長編『Evergreen』の人物紹介ページです。

 


 

短編・中編

 

  • パンクした重い自転車

    雅伸は必ず制服でそこに行く。時間に余裕があっても着替えては行かない。私服で行ったらその服にケチがつきそうな気がしている。気分的な問題だ。

  • 太陽の在り処

    藍色の雨空を海のようだと美映子は思う。天地が引っくり返って、逆さまの海から水がこぼれている。それはとても不自然な在り方で美映子はいつも不安になる。

  • 写真

    「朔夜さんって写真撮らないよね」
    君はスマートフォンを私に向けて呟いた。陽光にきらめく海から視線を外し、私はレンズではなく君の目を見る。

  • 渇仰

    八月。全国の球児が沸く季節。この大切な時季に『違和感』なんて低レベルな嘘がまかり通るほどには椎弥はチームに貢献しているし、練習を放り出しても構わないほどに妹と幼なじみが大事だった。

  • 赤を囲う

    【中編】
    その日、兄が飛び降りた。理由は知らない。
    感性。出生。性愛。外見。疾病。「普通」でない人たちが自分の色と在り様を見つけていく短編集。

  • 千々ノ一夜迄

    「『しんど百物語』、やってみませんか?」
    またおかしなことを言い出した。雅伸は眉をひそめて、隣に寝転ぶ女を見る。紺野未紅はベッドにうつ伏せになって、膝から下をぱたぱたと動かしている。

  • 眠れぬ夜に

    「雅伸くんって、お薬ないと絶対眠れないんですか?」
    妻の質問は実に唐突だったから、雅伸はシートから押し出した錠剤を床に転がしてしまった。

  • この突き刺さる青の小さな破片ひとつでも

    九回裏はなかった。後攻の相手校が三回に二得点を挙げ、先攻の高葉ヶ丘は一回から九回まで〇点を連ねた。熱い攻防もなく奇跡的な逆転劇もなく、侑志たちにとっての夏季大会は淡々と幕を閉じた。

  • 忌み枝を抱く

    建て替えた桜原家に初めての春が訪れた。見下ろす桜も心なし初々しい。父が生まれた記念に植えられたものだから、本当は皓汰よりずっと年上なのだけれど。

  • 眠罪

    眠るように息を引き取る、とはよく聞くが、男は死ぬように眠りにつく。意識を失う際に喉を掻きむしる。

  • 運想

    壁にかかる60インチ4Kテレビ。為一は新居のフローリングに座って真っ黒な画面を眺めている。
    結婚しよう――たった一言で二年に及んだ同棲は終わった。三つ上の彼女を喜ばせるはずだった幻想のために。

  • 傘を咲かす

    未紅は雨に濡れて帰るのが好きだ。むやみにテンションが上がる。
    みんなが傘を差しているほど手ぶらなのが楽しくなってしまう。
    シンギンザレイン。普通に生きていて、服ごと濡れる機会が他にあるだろうか?
    ゲリライベントは全力エンジョイに限る。

  • 黒が劣勢

    弱モードでも夜中の換気扇はよく響いて、気遣い虚しく妻が起きてきてしまった。
    「禁煙って約束したのに。私もこの子もどうでもいいんだね」
    妻はまだぺちゃんこのお腹を撫でながら恨みがましく言う。

  • 面目

    最後の夏は、多少なりともドラマチックに終わるものだと思っていた。
    竜光は誰もいなくなった部室で、捕手向けと褒められた大柄な身体を丸めてプラスチックコンテナからキャッチャーマスクを拾い上げる。

  • 夜中にアイスを買う自由

    「買って来ますよ」
    アイス食べたい、なんてほとんど意味のない未紅の独り言に、雅伸は大真面目な顔で振り返った。

  • 櫻にカナリヤ

    【中編】
    桜原皓汰、二十九歳。都会にぽつりと残った古い家で父と二人暮らし。
    このまま、なんとなく滅んでいくのだと思っていた。家も、親父も、俺も。
    そんなある日、父の応援する選手が引退会見で婚約を発表。お相手はどうも――皓汰!?
    嘘だらけで、とても優しい、苦しまぎれの愛の唄。

  • 虹よりも長く

    学活の後、校舎を出ると虹は消えかけていた。あんなに大きかったのに……怜二は水たまりを長ぐつでけっとばす。
    タイチは空に手をのばしランドセルに何かつめている。

  • 空論を廻す

    声高に配慮を求めてトラブルになってしまう生徒がいる、と皓汰にこぼしたのは、一月二日の午後だった。
    元旦に実家に戻って翌日の義実家。今に比べればおおらかに帰省ができた頃だ。
    侑志と皓汰のいる和室には火鉢。炭が爆ぜていた。部屋の隅まで届ききらない丸いぬくもりから外れないよう二人で身を丸めていた。

  • 多少なりともましな椅子へ

    財布と携帯電話と煙草にライター。持ち歩くのはこれで充分。
    黒いロングカーデのポケットに愛用のセットを突っ込んで、皓汰はひらりと電車に乗った。

  • 掬われない

    セーラーの襟を茶色のポニーテールが何度もかすめる。
    藤谷の横顔は今日も夕陽に縁どられている。

  • 留年旅行

    マンションのエントランスにゴルフに行きそうなオッサンがいると思ったら彩人だった。
    「おはよ、あっちゃん。今日も十八歳とは思えない格好してるね。またお父さんのクローゼットから勝手に服借りたの?」
    「そういう慶ちゃんは今日もまるで小学生だな。その原色のセーター、レゴブロックみたいで似合ってるぞ」

  • 覚えていなくていいから

    ビルとビルの間に敷かれた大通りを歩いていく。どことなく高校の通学路に似た景色。
    三年経ってできることも行ける場所も増えて、それでもまだ二人で歩いている。為一は浮かれた声で怜二の顔を覗き込んでくる。
    「で、レイジくん。今日はどこ連れてってくれんの?」

  • 墜憶の夏天

    僕はおまえを殺してでも生かし続けたかった。
    僕の追った影が死んでも、知らない君が歩んでくれる未来を選び取りたかった。
    太陽を堕とした日。愛よりも深く胸を穿った夏の記憶。

  • 「お兄ちゃん絶対合挌!」

    講堂の床にお守りが落ちていた。
    俺と同じ受験生のものだろうか、拾ってあげた方がいいよな……。
    『お兄ちゃん絶対合挌!』

  • 春がもうひとつあったとて

    「松原さんって誰?」
     桜原家のポストに入っていた、見知らぬ差出人からの手紙。心穏やかでない椎弥は皓汰を問い詰めるが、皓汰はどこか浮ついた様子で返事を書こうとしていた。
     ――皓汰はいつも自分を表現する言葉には不自由している。椎弥と共有できるかたちにはならないし、してもくれない――